『帰る』-300字SS
Twitter企画、300字ss。
今月のお題は『帰る』。
<どこまでも高い空の下>
オリジナル。
<子供はいつか>
科楽倶楽部さんの世界観。
<貸出専用>
タブレットマギウスより。
改行、空白文字抜き。300字以内。
===============
<どこまでも高い空の下>
土地は無くとも地面はあるさ。最長老は一人つぶやく。
家は無くとも屋根はあるから。女将は底なし笑顔を見せる。
置いてかないでおくれよう。頬の寝跡と頭の草と。付けて馬車追う子供らに何処からともなく笑みが生まれる。
*
『家』は帰る場所だった。
大切にすべき場所だった。
立場は矜持。守るべきは生まれの縁。
認められるべく日々励み、上を目指すべく競り合って。
こぼれるものをそのままに、さげずみを慈悲にすり替えて。
街に切られた空の高さに、ふと気付く。
*
行くあてなんかないんだろ。娘が覗き込んでくる。
ここへ帰ってくれば良い。大将はぶっきらぼうに背を向けた。
まつろわぬ民と呼ばれる彼らの。
「お帰りなさい」
幌馬車から笑顔が覗く。
===============
<子供はいつか>:科楽倶楽部
隣の家に子供が産まれた。元気な声が辺り一面に響き渡る。
隣の子供が熱を出した。車が呼ばれ人が出入りし、やがて安心した顔で戻ってきた。
隣の子供は成長する。賑やかに騒がしく。学校へ行き遊びに行き。友達も幾人もが出入りして。
隣の子供が家を出た。これでようやく静かになると母親は笑っていた。清々と寂しげに。
隣の子供が結婚相手を連れてきた。母親が隠れて拭った涙の跡を子供は見て見ぬふりをする。
子供はいつか家を出て行く。帰る場所を自分で作る。
それだけのことなんだから。呟いたのは誰だっただろう。
*
地球からの通信が途絶えた日。
管理者グループ通信班はしめやかに黙祷する。
*
放たれた種子は風に乗り、辿り着く地で命を繋ぐ。
===============
<貸出専用>:タブレットマギウス
今月のお題は『帰る』。
<どこまでも高い空の下>
オリジナル。
<子供はいつか>
科楽倶楽部さんの世界観。
<貸出専用>
タブレットマギウスより。
改行、空白文字抜き。300字以内。
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<どこまでも高い空の下>
土地は無くとも地面はあるさ。最長老は一人つぶやく。
家は無くとも屋根はあるから。女将は底なし笑顔を見せる。
置いてかないでおくれよう。頬の寝跡と頭の草と。付けて馬車追う子供らに何処からともなく笑みが生まれる。
*
『家』は帰る場所だった。
大切にすべき場所だった。
立場は矜持。守るべきは生まれの縁。
認められるべく日々励み、上を目指すべく競り合って。
こぼれるものをそのままに、さげずみを慈悲にすり替えて。
街に切られた空の高さに、ふと気付く。
*
行くあてなんかないんだろ。娘が覗き込んでくる。
ここへ帰ってくれば良い。大将はぶっきらぼうに背を向けた。
まつろわぬ民と呼ばれる彼らの。
「お帰りなさい」
幌馬車から笑顔が覗く。
<子供はいつか>:科楽倶楽部
隣の家に子供が産まれた。元気な声が辺り一面に響き渡る。
隣の子供が熱を出した。車が呼ばれ人が出入りし、やがて安心した顔で戻ってきた。
隣の子供は成長する。賑やかに騒がしく。学校へ行き遊びに行き。友達も幾人もが出入りして。
隣の子供が家を出た。これでようやく静かになると母親は笑っていた。清々と寂しげに。
隣の子供が結婚相手を連れてきた。母親が隠れて拭った涙の跡を子供は見て見ぬふりをする。
子供はいつか家を出て行く。帰る場所を自分で作る。
それだけのことなんだから。呟いたのは誰だっただろう。
*
地球からの通信が途絶えた日。
管理者グループ通信班はしめやかに黙祷する。
*
放たれた種子は風に乗り、辿り着く地で命を繋ぐ。
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<貸出専用>:タブレットマギウス
――この電子魔術書は貸出専用です。
一ページ目の記述を目にし、男は目を歪ませる。
リーダーではなくツールで開き、フォーマットを読み込んで。
魔術書概要、魔術リスト。嗤いが笑みに変わっていく。
*
占有禁止には理由がある。
届け出必須の大容量SIMが必要で、制約やら魔術師数やら事細かに決められている。
なんとも厄介で魅惑的で。
男は期限を書き換える。防護を外しコピーし焼き付け。
魔術書とはいえ、単なるレアな電子書籍でしかない。
のに。
*
一ページ目の記述を目にし、男は目をしばたたく。
タブレットが淡い光に包まれる。コピーを収めたハードディスクも、焼き付け済みのCD-ROMも。
一文だけが中央に。
――帰らせていただきます。
===============一ページ目の記述を目にし、男は目を歪ませる。
リーダーではなくツールで開き、フォーマットを読み込んで。
魔術書概要、魔術リスト。嗤いが笑みに変わっていく。
*
占有禁止には理由がある。
届け出必須の大容量SIMが必要で、制約やら魔術師数やら事細かに決められている。
なんとも厄介で魅惑的で。
男は期限を書き換える。防護を外しコピーし焼き付け。
魔術書とはいえ、単なるレアな電子書籍でしかない。
のに。
*
一ページ目の記述を目にし、男は目をしばたたく。
タブレットが淡い光に包まれる。コピーを収めたハードディスクも、焼き付け済みのCD-ROMも。
一文だけが中央に。
――帰らせていただきます。
by morimura_naoya
| 2018-08-04 21:00
| その他創作