『声』-300字SS
Twitter企画、300字ss。
今月のお題は『声』。
<私の声、知りませんか>
ホラー風味。SF。いや、たぶん、オカルトの意味では怖くないデス。
<僕らの声を>
科楽倶楽部さんの世界観。移民船が動き出すその直前。
改行、空白文字抜き。300字以内。
==================================
<私の声、知りませんか>
『私の声、知りませんか』
札を下げた人影がふわりと町を漂っている。夏の日差しも素通りする、まるで立体映像かのような。
どうしましたか? 声も聞かず文字も見ず、人影はただ文字を表す。
『声など要らないと思ったの。誰にも届かない声だったし』
挨拶も文句も要求もSOSも。
『だから』
一人で生きていこうと思った。頼らず、頼られず。楽になるはずだった。
後悔している。文字は続く。後悔、している。
僕は君を知っているよ。書こうと思って手を止めた。ネットの書き込み、テレビの向こう。声ではない情報で。
人影はふわりと過ぎていく。僕など見ずに、僕など知らずに。
僕はただ。思い出してと願い、見送る。なくしたのが声だけではないことを。
==================================
<僕らの声を>
音のアーカイブならアナログがいい。百歩譲ってデジタルならば出来うる限りの高音質で。有線で使うのならば、残り十日の期限のうちに。
マイクを片手に世界の果てまで求めて回る。
――リーリーリー
澄んだ虫の。
――ギシギシ、ドブン
氷のぶつかる。
――ビィゥ、ゴゥ
嵐の近づく。
虫の求愛鳥の歌声、乗せることの叶わない数多の動物たちの声を。
低い地響き高い囁き、圧縮したのでは消えていくこの地球(ほし)が語る声を。
僕らは一つ一つ収めていく。
――僕たちはここにいました。僕たちは生きていました。
――新たな惑星(ほし)に、沢山の声が満ちますように。
――楽園ではなかったけれど。酷いこともしたけれど。
――確かにここに生きていました。
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今月のお題は『声』。
<私の声、知りませんか>
ホラー風味。SF。いや、たぶん、オカルトの意味では怖くないデス。
<僕らの声を>
科楽倶楽部さんの世界観。移民船が動き出すその直前。
改行、空白文字抜き。300字以内。
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<私の声、知りませんか>
『私の声、知りませんか』
札を下げた人影がふわりと町を漂っている。夏の日差しも素通りする、まるで立体映像かのような。
どうしましたか? 声も聞かず文字も見ず、人影はただ文字を表す。
『声など要らないと思ったの。誰にも届かない声だったし』
挨拶も文句も要求もSOSも。
『だから』
一人で生きていこうと思った。頼らず、頼られず。楽になるはずだった。
後悔している。文字は続く。後悔、している。
僕は君を知っているよ。書こうと思って手を止めた。ネットの書き込み、テレビの向こう。声ではない情報で。
人影はふわりと過ぎていく。僕など見ずに、僕など知らずに。
僕はただ。思い出してと願い、見送る。なくしたのが声だけではないことを。
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<僕らの声を>
音のアーカイブならアナログがいい。百歩譲ってデジタルならば出来うる限りの高音質で。有線で使うのならば、残り十日の期限のうちに。
マイクを片手に世界の果てまで求めて回る。
――リーリーリー
澄んだ虫の。
――ギシギシ、ドブン
氷のぶつかる。
――ビィゥ、ゴゥ
嵐の近づく。
虫の求愛鳥の歌声、乗せることの叶わない数多の動物たちの声を。
低い地響き高い囁き、圧縮したのでは消えていくこの地球(ほし)が語る声を。
僕らは一つ一つ収めていく。
――僕たちはここにいました。僕たちは生きていました。
――新たな惑星(ほし)に、沢山の声が満ちますように。
――楽園ではなかったけれど。酷いこともしたけれど。
――確かにここに生きていました。
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by morimura_naoya
| 2016-08-06 21:00
| その他創作